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地政学的リスクやサプライチェーンの強靭化への関心が高まる中、Texas Instruments (TI) は史上最大規模の投資計画を実行に移しています。その戦略と背景を探ります。
テキサス州シャーマン(Sherman)の広大な敷地では、Texas Instruments (TI) による大規模な工場建設プロジェクトが進行中です。この地に建設中の2つの新工場は、同社が2023年7月に正式発表した600億ドル(約9兆円)規模、7つの新工場から成る巨大投資計画のほんの一部に過ぎません。
この計画が完了すると、シャーマンサイトだけで1日あたり数億個ものチップを生産できるようになり、TIは米国におけるアナログ・組み込みチップ製造のリーディングカンパニーとしての地位をさらに強固なものにします。
TSMCやSamsungが競う先端プロセス(2〜3ナノメートル)の高性能なCPU/GPUとは異なり、TIの主力製品は45〜130ナノメートルという比較的古い技術を用いたアナログおよび組み込みチップです。
TIは自らを「ファンデーショナル(基礎的)」な企業と位置付けており、その安価だが不可欠なチップは、iPhoneからTesla、NvidiaのAIデータセンターまで、10万社以上の顧客と8万種の製品に採用されています。
TIの競争優位性の源泉は、2009年に世界で初めてアナログチップ分野に導入した300mm(12インチ)ウェーハの大規模生産にあります。
従来の200mmウェーハに比べて、300mmウェーハからは約2.3倍の数のチップを生産できるため、大幅なコスト効率化を実現しています。今回建設中の7つの新工場は全てこの300mmラインに対応しており、既存の200mm工場の閉鎖や売却を進めながら、生産能力を最大5倍に拡大する計画です。
しかし、この巨大投資にはリスクも伴います。2020年の世界的な半導体不足では、TIの供給不足が自動車産業などに大きな打撃を与え、市場シェアの急落を招きました。この経験が大規模な capacity expansion(生産能力拡大)の背景にあります。
さらに、2024年夏には、米中間の関税問題に対する懸念からTIの株価が急落する局面もありました。TIの売上高の約20%は中国が占めており、同社は中国国内にも工場を保有するなど複雑なグローバルサプライチェーンを構築しています。関税不確実性の中で顧客が在庫を積み増す「先駆け需要」の反動や、中国側の報復関税が将来の収益を圧迫する可能性は否定できません。
それでもアナログ半導体の市場規模は拡大を続けており、TIは自動車の電子化(EV化)やAIデータセンター向け電源チップなど、今後ますます需要が高まる分野で強固な地位を築いています。
TIが600億ドルもの投資先にテキサス州シャーマンを選んだ理由はいくつかあります。
Texas Instrumentsの600億ドル投資は、短期的な関税情勢や景気変動を超えた、長期的な視点に立った壮大な賭けです。
あらゆるものが電子化され、AIが社会に浸透していく未来において、それらを支える「縁の下の力持ち」となる基礎的な半導体の需要は堅調に成長し続けるという確信。そして、その需要を、コスト競争力と供給安定性で勝る自社の米国内工場で満たすという戦略が、この投資の根幹にあります。
世界的なサプライチェーンの再構築が進む中、Texas Instrumentsの動向は、米国における半導体製造復興の成功を占う重要な指標となるでしょう。